とうきょう、ときめくめくるめく。

96年生まれ、東京・高田馬場在住のサブカル戯れ日記。

『乃木坂工事中』2018年3月11日回 出演/生駒里奈 齋藤飛鳥

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 乃木坂46の20枚目のシングルは長年グループを支えてきた生駒里奈の卒業シングルとして注目を集めていた。最近の中高生は残念ながら知らないかもしれないが、生駒と言えばグループ初代のセンターであり、初期のシングル群は生駒里奈というアイドルを象徴するといっても過言ではない。

 生駒里奈とは AKB以降の成長至上主義的アイドルを象徴するセンターだった。*1ここにおける成長とはCDシングルセールス枚数や、グループ/個人としてのメディア露出量といった“アイドル戦国時代”における縦の成長のことだ。
 
 『ぐるぐるカーテン』〜『君の名は希望。』の頃の生駒にともなうのは成長のための汗と涙だった。

 しかし、2013年夏の『ガールズルール』以降、『太陽ノック』(2015年夏)以外のシングルでは生駒は白石麻衣や西野七瀬にセンターを譲ることになり、2016年夏には『裸足で、summer』で斎藤飛鳥がセンターに抜擢されることになる。

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 グループとしてのCDセールスはミリオン近くをキープし、コンサートはチケット入手が困難になり、名実ともにトップアイドルに登りついたこの頃に乃木坂46のセンターに就いた斎藤飛鳥。
 彼女は縦の成長が終わった(そして、それにファンが疲れた)あとの“アイドル元禄時代”を象徴する横の成長を担保することになる。*2
 
 横の成長はメンバー自身の作家性や、メンバー同士の関係性によりグループとしての表現を豊かにする。乃木坂が設立以来行ってきた個人PVのクリエイティビティーに注目が集まったことや、「軍団」がこの頃から形成されたことがこの“元禄”性を象徴しているといえるだろう。
  
 齋藤飛鳥とは、ずばりこの“元禄”時代の申し子である。その作家性にはたびたび注目され2017年にはMONDO GROSSOとコラボして『惑星タントラ』を発表した。

 
MONDO GROSSO / 惑星タントラ (Short Edit)


 公式サイトによるとこの楽曲は齋藤飛鳥が「文学少女」だというエピソードから制作されたらしい。この「文学少女」の作家性は今年放送されたドキュメンタリー番組『7RULES』においてもいかんなく発揮されていた。

 大江健三郎全集に興奮したり、ひとり焼肉をしたり、壁に寄りかかるという(あまりにも詩的な)癖を披露したドキュメンタリー。
 
 番組内でのスタジオトークでは、オードリーの若林が「(齋藤飛鳥は)いまの時代にあっているのかもしれない」とコメントしていた。
  
 少し筆致にすぎるかもしれないが、この“アイドル戦国時代”から“アイドル元禄時代”へのパラダイム、ひいては生駒里奈から齋藤飛鳥へのパラダイムは様々なサブカルチャー領域のパラダイムとパラレルだと感じる。
 例えば漫画という領域においては、バブル期に日本を席巻した『少年ジャンプ』的な右肩上がりの成長物語*3から日本そのものの成長率が右肩下がりになって以降「等価交換」を絶対条件とした『鋼の錬金術師』や「日常系漫画」と呼ばれる作品が人気を獲得していったように。

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そして先日の『乃木坂工事中』では齋藤飛鳥が爆発した。

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飛鳥 初心に返ると今ままで見なかったものとか、今まで見なくていいやと思っていたものも気になっちゃって。なんか、ファンの人がどういう気持ちで応援してくれているんだろうとか、みんなが……うーん…….なにを思って……わたしと接してくれているのかがわからないなと思ってて。

日村 なんか生き詰まっているわけではないんでしょ?

飛鳥 人生にですか?

日村 人生と言ったらあれだけど(笑)。

飛鳥 なんか生きる詰まっているというか、普通の人が学ぶであろうことを学ばずにきたというか、若いうちから乃木坂に入ったからかもしれないけれど、どうしたらいいかわからないなと思ったときに、その選択の一つが私は本を読むことだったりするけれど、本を読んでもわからない。

  過去にこんなに煩悶するアイドルを見たことがあるだろうか。

 齋藤飛鳥という乃木坂46のエースにいま流れるのは表現にともなう汗と涙だ。

*1:乃木坂のメンバーのなかで生駒だけが唯一AKBとの兼任経験があった。また、同時期に乃木坂46と兼任した松井玲奈は乃木坂がともなう表現性を最も希求していたAKBメンバーだった。

*2:この頃に発売されたアルバムの『それぞれの椅子』というタイトルがこれを象徴している。また、このアルバムセールスの時期にしきりに「『乃木坂らしさ』とは何か」というコンセプトを打ち出していたことにも注目に値する。「乃木坂らしさ」の探求は個々のメンバーの自意識の探求と密接に関わっている。

*3:生駒は「ジャンプ好き」で知られ、『ジャンポリス』や『オー・マイ・ジャンプ〜少年ジャンプが地球を救う〜』にレギュラー出演している。