とうきょう、ときめくめくるめく。

96年生まれ、東京・高田馬場在住のサブカル戯れ日記。

『アンナチュラル』 脚本/野木亜紀子

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 このドラマは「お約束」をことごとく爽快に破る、「これが“リアル”だ!」と言わんばかりに。婚約者を殺された女は涼しげともみれる顔でタバコを吸い、恋人を殺された青年は憎悪のままに仕返しする。*1

 この“リアル”を描くドラマのプロットとパラレルなのが、司法解剖医(週刊誌の記者)という職業だ。彼らは“システム”の周辺ににいながらその虚を暴くために“リアル”に対峙する。*2

 彼らが立ち向かう“システム”は国家をはじめとして、*3、大量生産ライン、仮想通貨、ライブチャットプラットフォームと現代に生きる誰もが関わらざるを得ないものだ。だからこそ、『アンナチュラル』は司法解剖という回路を用いながらも我々の日常に深く潜り込んでくる。

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 また“システム”という大きなものに対して1つの死体/人生という一見して小さなものを対峙させることで、よりその「小さな」誰かの人間性が際立つ。

 三澄ミコト(設定は33歳)が立ち向かうのは家族という社会的な“システム”でありながらそれは彼女の人生において、母性の回復と密接に関わっている。これはたびたび繰り返される「女と仕事」の話や、ミコト自身が母親に殺されかけたこと、義理の母とのいびつながらも親密な関係性に象徴される。

 対して、中堂系が立ち向かうのは司法という“システム”でありながらそれは彼の人生において、父性の獲得と密接に関わっている。これは言わずもがな恋人の死因解剖に司法的な手続きを無視して携わったことや、中堂自身の中空な生活描写に象徴される。

  最終回ではついに彼らは自らの人生と直接的に対峙することになる。彼らの人生の命題に、また決別した婚約相手(ミコト)や同僚(中堂)とどう折り合いをつけるのか、最終話でミコトと中堂が変化しいかに成熟するのか、楽しみで仕方がない。

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<語り足りないあれこれ>

・市川実日子が凄まじくいい。オリーブ女子、もしくは高踏派少女漫画的中性キャラ(『ラヴァーズ・キス』『blue』)から、『シン・ゴジラ』以降のリケジョキャラ(vaio、『アンナチュラル』)への女優としての進化が恐ろしく美しい。

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・twitterのフォロワー数が今期ドラマ中最多人数を誇っている。3/10 の時点で約27万人と次点の『トドメの接吻』と10万人の差をつけている。視聴率は良いとも悪いとも言えない『アンナチュラル』だが録画視聴回数やTVerでの再生回数が好調らしい。

*1:『それでも生きていく』(2011年)の風間俊介を思い出したドラマフリークは少なくなかっただろう。

*2:そこにある死体(虚)を開き、内臓や血液から導き出される死因(“リアル”)に対峙する。また、繰り返されるコイントスの演出がこれを補完する。

*3:UDIラボは国家という“システム”のなかには存立し得なかった。