とうきょう、ときめくめくるめく。

96年生まれ、東京・高田馬場在住のサブカル戯れ日記。

『anone』 脚本/坂元裕二

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  坂元裕二が今作をもって「連ドラをおやすみ」することを自信のインスタグラムで発表した。これにより『anone』は坂元裕二史におけるマスターピースとなった。*1

 このドラマには世代のレイヤーが5つあった。上から、亜乃音(田中裕子)と万平(火野正平)の世代、青羽(小林聡美)と持本(阿部サダヲ)さんの世代、中世古理市(瑛太)と中世古結季(鈴木杏)と青島玲(江口のり子)の世代、ハリカ(広瀬すず)と彦星(清水尋也 )の世代、そして最後が青島陽人(守永伊吹)の世代の5つである。
 近年のドラマ作品ではありえない世代の厚さである。たいていのドラマはおおよそ2〜3世代間の物語しか描けない。これだけでも坂元裕二の脚本技術は改めて大いに評価できる。
 この5世代にわたる共同体が立体的に織り成す日常*2がこのドラマのもっとも大きな魅力だと私は感じた。

 5世代にわたるがゆえに、我々は彼らの“生”と“死”の以前と以後を想像することができる。
 たとえば、最終話で青羽は持本を見取った翌朝に歯磨きをしていた。本来、ドラマのお約束を参照にすれば、持本の死後の直後がまさか青葉の歯磨きのシーンだとは思わない。ただ、ここまで彼らの日常を見ていた我々は持本さんの死後、普通に歯を磨く青羽さんを見ても驚かないだろう。“生”と“死”は常に彼らの日常と同一地平線上にあり続けた。

 おそらくドラマが終わったあと現れる彼らの(疑似的な)子供、孫の代までこの共同体は続いていく。この共同体の永遠性と対比されるのが最終回で亜乃音、青羽、ハリカ、そして持本でみた流星群の刹那性だ。

 おそらくこの流星群はシリーズ全体を通して描かれた偽札を巡る彼らの冒険と相似する。彼らは少しの非日常を孕んだ、超時間的な日常のなかで今日もどこかで生きているのである。*3

 

*1:10年後にはおそらく『anone』以前と以後で分けて語られるだろう。

*2:繰り返し描かれる食事のシーンがこれを補完する

*3:結局、中世古くんも日常に回収された